リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間 by 高野登

 さて、会社をスタートさせた一九八四年、W・B・ジョンソンのもとに集まった五人のホテリエ達は、
「リッツ・カールトンはお客様や従業員にとってどんな存在であるべきなのか。そのために私たちは何をすべきなのか」
 ということを徹底的に話し合いました。そしてその結果を一枚の紙にまとめあげました。
 その内容こそがクレドです。つまりクレドとはリッツ・カールトンの理念や使命、サービス哲学を凝縮した不変の価値観であり、時流や地域性に左右される性質のものではないのです。(P.45)
リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間

リッツ・カールトンの提供するホスピタリティの原点が詰まっているのが、このクレド=信条・理念、です。


このクレドは、内容は他の会社の「社訓」と大きな違いはないものです。なぜ、そんなクレドを原点にリッツ・カールトンが究極のホスピタリティを全スタッフが同レベルで提供できるのか。それは、「浸透度」が圧倒的に異なるからだ- 本著の著者でリッツ・カールトン日本社長の高野さんはおっしゃいます。
リッツ・カールトンのスタッフは、クレドを肌身離さず携帯し、毎日のラインナップ(朝礼)でそのクレドをただ唱和するのではなく、その内容について意見を出し合い考える、ということを継続して行っています。そうやって芯まで浸透したクレドは、従業員全体で共有され、お客様に対するサービスや従業員同士での助け合い・感謝、に反映されています。
僕が前に在籍していた日本のある会社では、毎週月曜日に「全体朝礼」があり、そこでは社員全員が社訓や経営理念を唱和し、売上等の情報を共有する、ということが行われていました。少なくとも僕には、この会社の社訓は浸透していませんでしたし、むしろ、そんなのは意味のないもの、とまで思っていました。これは僕自身の会社に対する考え方というものも影響しているとは思いますが、周りの社員を見ると僕同様に全体朝礼は面倒なもの、唱和なんて意味ない、なんて思ってしまっている社員も少なからずいました。会社全体で社訓を浸透する、なんてのには程遠い状態でした。その会社の理念や従業員に対する考え方、というのは文章だけみると、確かに立派なものでしたが、浸透していなかったし、それを従業員がどこまで意識していたのか、疑問でした。
それなのに、何でこんな意味のない朝礼をしてるんだろうな、とずっと思っていましたが、本著を読んでその答えが分かった気がします。「肌身離さず携帯」「毎朝みんなで考えて話し合う」というこの二つのルール。他にも、従業員個人の考え方、会社の体制、等々、色々な要素があるかとは思いますが、基本的にはこの二つのルールがあるかないか、そこが大きな「差」そして決定的な「差」になると思います。
そして、クレドやラインナップは、そのまま、僕達個人の人生において大きな影響を及ぼすのは間違いないと個人的には思います。自分のクレド=信条・理念・ミッションを考えて紙に書き携帯し、毎日読んで考える。そしてそれがどんどん自分のなかに浸透していく。そうすれば、行動もおのずと伴ってくる。個人のクレド。そこに大きな可能性を感じます。
このクレド以外に、リッツ・カールトンの究極のホスピタリティの秘密のひとつに、「ファーストクラス・カード」というものがあります。

 たとえば、お客様の荷物が予想以上に多く、ベルマンがハウスキーパーのセクションにヘルプを頼んだとしましょう。荷物を運び終わったとき、手伝ってもらった感謝のしるしとして相手に手渡すのがファーストクラス・カードです。
 ファーストクラスという表現は、アメリカ社会では相手に対する最高の賛辞とひとつで、美辞麗句を並べて相手を褒め上げるよりも、
「You are first class! (きみはファーストクラスだ)」
 と一言で言ったほうが敬意が伝わります。ファーストクラス・カードもまさにこれと同じ効果を持っていて、カードを手渡すことで、相手に最大級の感謝の気持ちを示すことができるのです。(P.131)

このファーストクラス・カードは、コミュニケーションツールに留まらず、人事考課にも適用されます。スタッフが助け合い感謝しあうことで高まるサービスの質。そのためにこういった粋なツールを使う。スタッフを大切にすることが究極のホスピタリティを実現するために不可欠ということを理念として持っているからこそ効果の発揮するツールだと思います。
リッツ・カールトン究極のホスピタリティの原点がよくわかる一冊でした。そのほとんどの内容が個人の仕事や人生にも役立つようなものばかりです。

リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間
高野 登
かんき出版 (2005/09/06)
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3 thoughts on “リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間 by 高野登

  1. sayu@fuji

    >リッツ・カールトンが究極のホスピタリティを全スタッフが同レベルで提供できるの>か。それは、「浸透度」が圧倒的に異なるからだ
    「浸透」するといういことは本質が理解できているとうこと、サービスを受ける側のニーズをいかなる時にも満たせるということだと思います。それは、無理難題をすべて聞きましょう、ということではなく、誠意を持って気持を満たすというような。
    「アフタヌーンティーが素晴らしいから大阪に行くなら無理してもリッツカールトンに」との友人からのアドバイスで、宿泊したことがあります。
    当日、午後にはチエックインできるはずが、予定が押し大阪に着いたのは午後6時、ホテルに着いたのは7時を過ぎていました。
    ポーターの方に荷物を運んでいただきながらティーを楽しみにしてきたのに残念だというような会話をしながら部屋に着きました。荷物を落ち着けてひと段落したときに内線で「もしよろしければお部屋にてティーを楽しんでいただく手配をいたします」
    との連絡が。
    *ポーターの方が会話でのお客のニーズをきちんとコンシェルジュに伝えている。
    *臨機応変な対応
    *連絡の電話の間のよさ
    表面的なセレブリティーのみを大切にするスノッブ
    ホテルでは感じられない暖かさでした。
    このご本読んでみたくなりました。

  2. ぐんじ

    私の親友が一昨年大阪のリッツで結婚式を挙げたのですが、彼は結構仕事でも利用しているらしく、リッツのサービスにはべたぼれです。
    自称ホワイトクレーマーの奴が言うのだから、相当良いのでしょう。大阪だからってのもあるのかなあ。東京にできるリッツカールトンにも期待したいですね。Mr.heyday、紹介してくれてありがとう。早速注文したよ。

  3. heyday

    sayu@fujiさん、ぐんさん、コメントありがとうございます。
    sayu@fujiさん、
    > *ポーターの方が会話でのお客のニーズをきちんとコンシェルジュに伝えている。
    > *臨機応変な対応
    > *連絡の電話の間のよさ
    本著にもこういったエピソードがたくさん紹介されていますが、実際に体験されてる方のお声を聞いてみたいと思ってました。
    ありがとうございます。
    素晴らしいですね、やはり。
    すごいのは、このハイレベルなホスピタリティを全スタッフで共有されている、ということ。
    本著のなかで、リッツ・カールトンのサービスは、「ジャム・セッション」である、といったことが書かれていますが、紹介していただいたエピソードはまさにそれですね。それぞれのスタッフが最高のアドリブをきかすことによって提供される究極のホスピタリティ。
    今年中、しかも早いうちに、体験したいと思います。
    ぐんさん、
    > 自称ホワイトクレーマーの奴が言うのだから、相当良いのでしょう。
    むむむ、やはり一度体験してみないといけませんね。今年の目標(ってほどのものでもないけど)に入れときました。
    > Mr.heyday、紹介してくれてありがとう。早速注文したよ。
    Thanks!

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