「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて 」(参照)を著した佐藤優氏によるニュース(主に外交に関する)の斬り方。
「国家の罠」を読んだときにも思ったことだが、普段私達が見聞きするニュースというのは多分に政治的背景や意図というフィルターを通されているな、というのを痛感する。そういったフィルターを通ったニュースを、何も考えずにそのまま読むと本来知っておくべき、あるいは考えるべきことに気付くことが出来ないものだ。
本著は『フジサンケイビジネスアイ』に連載された「地球を斬る」(参照) という”ラスプーチン”佐藤優氏による時事解説の第1~60回(2006/1/9~2007/3/8)を単行本化したもの。時事解説として、今も継続して週一で更新されているこの連載は、その切り口の鋭さから学ぶことが非常に多い。時事解説なので、リアルタイムに読むことに特に意味がある連載ではあるが、本著がおいしいのは、当時の時事解説をそのまま掲載しながら、キーワード解説、検証文、さらにそれを読むだけでも本著を手にする価値があるといってもいいほど読み応えのあるあとがき(「第三次世界大戦」のシナリオ)が追加されているところだ。
連載掲載順にまとめられた本著は、各コラムの内容が多彩で、悪く言えば寄せ集め的ではあるが、全体を通して、佐藤氏の外交官(起訴休職中)・インテリジェンスオフィサーとしての思考法・着眼点は冴え渡っている。特に北朝鮮・イランの核開発等に関する佐藤氏の時事解説は、それらの問題が具体的な脅威として私達の生活に迫っているんだなということを思い知らされる。その辺りは、あとがき(「第三次世界大戦」のシナリオ)に簡潔にまとめられている。
テロリズムも私達にとって、今や「具体的な脅威」だ。空港でのセキュリティチェックがあれだけ強化されたことを考えても、テロリズムは「対岸の火事」とは言えない。そのテロリズムといかに戦っていくべきか、それを「思想戦としてのテロリズム」(P.234)の検証で以下のようにまとめている。
こうしてイタチごっこが続くのであるが、最終的には国民がテロリストの要求には一切屈しないという姿勢を貫き通せばテロはやむ。テロ対策の根幹は、思想戦である。テロに怯まないという思想を国民が共有しなくてはこの戦いに勝つことはできない。(P.237)
テロが身近に起きてから、その脅威に気付いても遅い。それはそこに迫っているという認識を私達個人がまず持つことだ。それさえ出来ずに「テロに怯まない」という強い思想を国民で共有することなどできない。
そういう認識を持つために、日々発信されるニュース(それがどんなフィルターを通っているにせよ)をきちんと収集し、行間にこめられているかもしれない情報まで読み解くという意識が大事だ。それには様々な予備知識を持つことが必要になるが、本著はそれらの予備知識に習得に加えて、ニュースの読み方を鍛錬する上で、非常に良質な教科書といえる。現在も連載中の「地球を斬る」(参照)も合わせて、世界を知る為に読んでおきたい一冊だ。