五反田駅東口を降りて、右手(東急)方面へ歩道橋を渡り、ソニー通りを品川方面(キャッツシアター方面)へ少し歩くと、右手に小さなパン屋さん「パネッテリアアリエッタ」がある。素材に徹底的にこだわった「本物」の天然酵母パンは、なかなかの値段設定で、ただ空腹を満たすだけためだけに買うには敷居が低くない。
僕はどちらかというと、「食」にこだわりを持っていない。普段はコンビニで買えるような菓子パンの類で満足しているが、本著を読んで、その「本物のこだわり」で作られたパンというのがどんなものなのか知りたい欲求に駆られたので、五反田まで足を運び、なけなしの小遣いをはたいて買って食べてみた。
食したのは、「パネッテリア アリエッタ」のホームページで紹介されている(参照) 人気の三品。パン・オ・ミエーレ、メスコラータ、フェニックス。本著を読んで、その「本物へのこだわり」かたに少なからず感銘を受けていたという、気持ちの高揚感を差し引いても、これらのパンは旨い。健康志向の天然酵母パン、というと味気ないイメージがわいていたが、ここのパンはそんなイメージとはかけ離れて、とにかく旨い。こんなパンを食べてしまうと、コンビニで買って食べていた菓子パンは、まさに「お菓子」でしかなかったんだなとしみじみ思う。
いや、これまでももちろん、菓子パン以外のパンを食べたことはあるが、ここのパンを食べたときほどの衝撃はなかった。多分、本著を読まずに、何も知らずにここのパンを食べたとしても、同様な感動を受けただろうなと思う。素人なので、うまく言い表せないが、とにかく旨いんだ。身体だけではなくて、心に訴えてくるというか何というか。
残念なのは、パネッテリアアリエッタのパンを食べる前に、本著を読んでしまったことだ。食べて感動してから、本著を読んで、その味の秘密を知りたかったなとつくづく思う。本著には、食へのこだわりだけではなく、商売をしていくうえで本物にこだわるということがどれほど大事なことかという、ある意味で商いの基本というか本質が書かれている。全ての商売人、企業人にお勧めな本ではあるが、読む前にまず、パネッテリアアリエッタのパンを食べることを強くお勧めする。食べて感動してもらって、その味の秘密を本著で紐解いていく、というのが、正しい本著の食し方。
もしどうしてもパンを食べる前に本著を読むことになったとしても、読んだら必ずパネッテリアアリエッタのパンを食べるべき。パンは食べるだけでも十分楽しめるし、そこで完結できるが、本著はそういうわけにはいかない。本著に綴られている全ての結晶がここのパンであるからには、ここのパンを食べないことには、本著を読んだ意味がない、といっても言いすぎではないのだ。
この文章を書いていたら、また無性にパネッテリア アリエッタのパンが食べたくなってきた。本物は飽きない、飽きないのが本物。そういうことだ。